読了の向こう側に一体何があるのか

名著読了後の世界が知りたくなった主婦のブログ

幸福というものは平静と享楽だ。

3月12日、堂目卓生著『アダム・スミス中公新書、読了。

 

 

かなり鬱期に入っております。

コロナショックで日経平均株価の底も抜けて、数日前までは底に達したかも?なんてうわさも囁かれていたけれど、いやいやなんのその。穴、空いちゃいました。どこまで下落するのやら。

今私が保有するのは長期用の銘柄なのでまあ、下がっても……的な考えはあったけど、先生も言うように、保有銘柄一覧を開くたびに緑の数字が大きくなっていくのは、精神衛生上まったくもってよろしくない。

こんなことなら早い段階で売れば良かった。

と思ってみても遅い。明日は金曜日なので利益確定の買い埋めがくるかな~~と期待して待ってみる。上がったら売っちゃおうかな。。いや、でもバフェットさんの肩に乗ろうと決心してからまだ1週間も経ってなくね?

自分との戦いに、負けそうだ。

 

まだ株の調子がここまで悪くなかった頃、かなり勉強する意欲が強くて、同時に読書欲もいい感じで、『国富論』を読もうと決心した。

かなり分厚い、高額な本だ。上下2冊合わせて8,000円!

でも、近代経済学の祖アダム・スミス

「見えざる手」でおなじみのアダム・スミスを読まずして、投資家と名乗れるか!と意気込んで、買うには買ったものの、その直後に齋藤孝先生が著書の中で、『国富論』を読むには『道徳感情論』をまず先に読まなければ、スミスの思考が正しく理解できない。という趣旨の話をされているのを知った。それでは、と思い『道徳感情論』を先に読むか……とネットでレビューを読んだのだが、それなりに読みづらいらしい。国富論でも骨が折れるのに、その前にも山があるのは、2つ目の山に到達できない可能性があるな……と悩んでいたところ、上記の1冊を見つけ、小躍りしたのだった。

堂目卓生氏の『アダム・スミス』は、その名の通りアダム・スミスの思考を、彼が生涯で2冊だけ著し、その2冊ともが最高評価の名著である『道徳感情論』と『国富論』とに基づいて解説してくれるという1冊なのだ。

つまりこれを読めば、道徳感情論と国富論の大筋がわかる。しかも1流の研究者が解説してくれる。しかもこんなに素晴らしい本が1冊なんと880円+税!!!

迷わなかったですよ、はい。ぽちっとね。

 

 

国富論については経済学の本ということで知られているが、アダム・スミスの考えを知っていくうちに、私は道徳を学んでいる感覚になった。

淡々と冷静に、人間というものを観察し考察するその心の目は感嘆するほどに鋭く、俯瞰的。感情的とは真反対で、理知的でおとな。国の為政者がこんな考え方の人ばかりだったら、今頃どれほど世界の秩序は保たれていただろう。いや、私たちは一人一人がこうあるべきで、こうであろうと努力しなければならないのだと気づかされる。

人間は「賢明さ」を持ち、「フェアプレーができる」存在だという人間への信頼の元、彼は政府による市場への規制を撤廃し、競争を促進することによって経済は成長すると説いた。一方で、人間は今まで受けてきた政府の規制による恩恵が、急にすべてなくなると不満が爆発し暴動を起こすので、考え方が正しいと思うからと言って、為政者は急進的な行動をとるべきでないと釘をさす。徐々に規制を緩和しつつ、折り合いをつけてくべきだと。

この、何とも言えないバランス感覚に、私も取りつかれ、彼のファンになってしまった。堂目氏もこう著している。

 

スミスは、到達すべき理想を示しながら、今できることと、そうでないことを見きわめ、今できることの中に真の希望を見出そうとした。『国富論』が不朽の名声を得ることができたのは、多くの読者が、そこに市場経済に関する斬新な理論を見出しただけではなく、スミスのバランスのとれた情熱と冷静さを感じ取り、それに同感したためであろう。

 

新型コロナウイルスで多くの人々が何かしらを諦め、我慢し、苦しい立場に立たされている。ほとんどの人がそうだろう。私もそうだ。

だが、「つらい苦しい怖い」と言って毎日を送ったとて情況は変わらない。ならば、スミスの言うように「今できることとそうでないこと」を見きわめ、今できることを全力で行い、その中に希望を常に見出し続けること。

これが一番大事なのだと気づいた。

また、スミスは「人間にとって最も重要なのは心の平静を保つことである」という信念を持っていたという。

幸福というものは単に富の多い少ないではなく、「平静と享楽」にある。

平静なしには享楽はあり得ないし、完全な平静があるところでは、どんなものごとでも、ほとんどの場合、それを楽しむことができる。

という。

恐れ入る。おっしゃる通りの一言だ。

スミスによれば、人は、多くの富を築いた資産家のような人々と、少しの富しか築けなかった人々の幸福感の差を、過大評価しすぎているという。また、無名と広範な名声の違いについても。

常に自分の富や名声が他人に比べて劣っていると感じ、それを必死に追い求める(私みたいな)人は、個人の状態として不幸であるだけでなく、他人の迷惑になることすらある。ともいっている。

 

すみません……生きていてすみません……

という気分になった(^^;)

ともかく、心の平静があれば人は幸福なのだと教えてくれた。スミスは経済だけでない。経済のことよりも「人間」を教えてくれた。

「幸せ」を教えてくれた。

私がスミスに興味を持ったのは株式投資からの流れだが、人生にとってこんなにも為になるアドバイスをもらえるとは思っていなかった。感謝したい。

最後に、私が一番好きな、そして感動した、スミスが死の前年に書いたとされる文章を載せて終わりにしようと思う。

エピルスの王の寵臣が王に言ったことは、人間生活の普通の境遇にあるすべての人びとにあてはまるだろう。王は、その寵臣に対して、自分が行おうと企てていたすべての征服を順序だてて話した。王が最後の征服計画について話し終えたとき、寵臣は言った。「ところで、そのあと陛下は何をなさいますか」。王は言った。「それから私がしたいと思うのは、私の友人たちとともに楽しみ、1本の酒で楽しく語り合うということだ」。寵臣は尋ねた。
「陛下が今そうなさることを、何が妨げているのでしょうか」。